生きている。

夜、全身麻酔からさめて真っ先に思ったことは「痛い」「寒い」であった。

呼吸を停止させて人工呼吸にきりかえる全身麻酔は、ある意味、いったん死んでしまうに近しい、とだれかが言った。身体がリセットされる、とも聞いた。阪神・淡路大震災に遭遇した、あのおそろしい瞬間の次に死の淵に近づくわけだから、人として劇的に生まれ変わるにちがいない、と興味津々だった。

結局、あまりにも人間的な、生の根源に近い衝動を、声にならない声で叫んだだけだった。思えば、人はそう簡単には変わらない。変えられるのはおのれの強固な意志のみ。なぜ、何を、どうするのか、具体的な行動を選択し続けるしかないのだろう。これまでも、そうであったように。

けろっとしていたはずなのに、手術室のベッドに横たわり、グリーンの天井を見上げているうちに涙があふれてきたのは不思議だった。実は心細かったのか、みんなが念を送ってくれているからか、と考えているうちに意識を失った。

おかげさまで、無事に覚醒。これよりは、さらにシンプルに、したいことを見つめて実行したい。そう思ってバカンスに持ってきたのは、『覚悟の磨き方』『吉田松陰 留魂録』『松下村塾』『吉田松陰(下)』と、松陰先生づくしなのだった。

それにしても、術後、ひと晩明けて朝食のお味噌汁がおいしかったなぁ。生きてるって、すばらしい。