相手の土俵。

「アホは、いらんぞ。今すぐに辞めてしまえ」

短大を卒業して、社会人になったばかりのころ。3ヵ月ほど研修でお世話になったU係長(当時)に初めて会った日、開口一番、そう言われてふるえあがった。

自分はアホではない、と思っていた。どちらかと言えば、かしこい方なのではと思い上がっていたのかもしれない。自分がアホだと言われたのか、試されているのか、持論を披露しただけなのか、U係長の真意が読み取れなくてあせった。

「アホではありません。だから、よろしくお願いいたします」とようやく言った…ような気がする。

「そうか」とU係長はくるりと背を向けて、「じゃあ、行くぞ」と歩き出した。元柔道部の大きな背中について歩いていくと、向かった先は喫茶店。以後はほぼ毎日、コーヒーを飲みながらいろんなことを教わった。もう、ほとんどわすれてしまっているのが残念だけど。

今でも実践している教えのひとつが、「相手の土俵でたたかえ」ということ。

ホームで力を発揮するのは、だれにでもできる。アウェーで勝利や優位性を手に入れてこそ、その力は本物だと言える。大きなプレゼンに限らず、日々の打ち合わせなど、いかなる時も相手の土俵に立て、相手のテリトリーへ足を運べ、ふところに飛びこんでしまえ、というのだ。

フリーランスだからということもあり、わたしの舞台はつねに相手の土俵だ。はるばる足を運ぶことで見えてくるものは、以後の仕事に必ず何かをもたらす。